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Ririko Yamaguchi
産土神
石は大きく寡黙であった
わたしは石を気に入り、イワオと名づけた
石魚と書く
わたしは石を抱き 石の子を孕む
子は一か月もすれば満ちるのですぐに産んだ
産婆など頼んではいないはずなのに
どこからともなく
にゅうと手があらわれて子を取り上げた
その夜は
人には聞こえぬ周波数の産声が遠くまで響いていたという
のちにイワオが教えてくれた
わたしは次々と孕み、次々と産む
石の子はイワオに似て
どの子も物静かだった
抱えればそれは冷んやりと気持ちがよく
だんだんに温まってゆくのも愛おしかった
住まいは石であふれていった
ついに大家から苦情がきたものだから
わたしは子らを森の奥へと連れていった
イワオは黙ってそれを見ていた
ひとりひとり置いてゆく
子らは泣きもしないが
わたしに聞こえないだけなのかもしれない
森の一角は 石の子らであふれた
子を殺した女
子を殺された女
子の流れた女
子を産まぬ女
子を産めぬ女
黄泉には
仲間ごとに集落があるというが
石を孕む女の場所もあるだろうか
薬缶が泣くのは乳を欲しがる赤子のようです
石の子らは泣かないので
日に何度も湯を沸かすのです
わたしは先月産んだばかりの新しい石の子を連れて
森へゆく
その一角は石の子らでいっぱいで
傍らに座れば
背中をあずけるのにちょうどよい高さになっている
(文芸思潮現代詩賞 佳作)
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