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なっちゃんのこと
 
 
なっちゃんとは、数年前に知りあいました。
 
いなかのちいさな小学校で、二年間
特別支援学級の支援員をしていたときに
在籍していたのが、なっちゃんでした。
 
なっちゃんは自閉症です。
意味のある言葉は、ほとんど発しませんでした。
 
とつぜん泣いたり
とつぜん笑ったり
自閉症の子どもとの関わりに
まだ慣れていなかったわたしは、
戸惑うことばかりでした。
 
でも、ひとつだけ
なっちゃんと関わる方法がありました。
 
歌です。
 
歌を歌うときだけは
なっちゃんと触れ合っているという
実感がもてました。
(なっちゃんのほうは、どうだったか分かりませんが)
 
わたしが童謡などを歌うと
なっちゃんが、一緒に歌ってくれました。
 
なっちゃんの歌に
わたしが合わせることもありました。
 
なっちゃんと歌を歌っているときには
ほかでは味わったことのない
なんともいえないよろこびがありました。
 
それとともに
歌ってすごいな、という思いが
わたしのなかで
どんどん大きくなっていきました。
 
話すことはできないのに
歌ではこんなにたくさんの言葉を
発してくれるなんて…

歌って、なんてすばらしく
なんて不思議なものなのだろうと
思いました。
 
そして、いつしか
自分のつくった歌をなっちゃんが歌ってくれたら
どんな素敵だろうと思うようになりました。

 
その頃すでに、童謡詩をかき
ぽつぽつと雑誌に載せていただくようになっていたわたしは
そんな希望を抱くようになりました。
 
童謡だけではなく
いわゆる詩を書くようにもなった今でも
原点は童謡だと思っています。
 
 
おとなになったなっちゃんは
今ではもう歌ってないかもしれません。
でも
 
「なっちゃんに歌ってほしい」
 
という思いは
わたしの中に、どっしりと根付いています。
 
 
童謡をかくときは
心のどこかでなっちゃんを思っています。
 
なっちゃんに歌ってもらうために
そして
あの頃のなっちゃんと、自分に向けて
かいているのかもしれません。
 
 
音にのって、旅立たずにはいられないような
生命力のある詩を
 
かけたらいいな…と
日々、思っています。
 
山口理々子

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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