top of page

神話

 

 

星々のあいだにひかれた線を

ケシゴムで消した

 

囚われた者たちを

逃がしてやるために

 

サソリは、砂漠へ

クマは、山へ

ほかのたくさんの者たちも

それぞれの場所へとかえっていった

星は

なにもかわらずに瞬いている

 

自分たちが線で結ばれていたことなど

知るよしもないのだろう

その線が いま消されたということも

 

そして わたしは

名前という亡霊をひとつ、ひとつ、つかまえて

そっと湖に沈めた

 

幾時代かがすぎ

深いふかい湖の底では
あるじを失った名前たちが
ひそひそと おはなしをはじめる
 
いつの日か ここから
あたらしい神話が
泡のように生まれることだろう

bottom of page