top of page

​浅蜊

 

土から遠く離れた部屋の

台所の隅に

暗い小さな海をつくり 浅蜊を遊ばせる

 

深夜に

車の流れは波音になるから

浅蜊たちは安心して

隠していた秘密を吐きだすだろう

 

それぞれの匂いと事情と記憶とを

頑丈なガラスで閉ざし

車は走る

西へ、東へ、

 

いつしか その波が

一瞬にして地図を消しさることがあるのを

忘れてはならない

 

その時 わたしは

海の底で

金色のファンファーレを聞く

 

それは、

現象なのだ、

トランペットが告げている

 

耳には届かぬ

太古から続く通奏低音を枕にして

わたしは

いつの間にか眠るだろう

bottom of page