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Ririko Yamaguchi
シーソー
その人は
左手を私の肩にのせ
右手で持つ白い杖で
不規則なスタッカートを奏でている
私と
その人は
移動し、時に立ち止まる
その人のなかに静かな湖があることを
私はしっている
「段差があります」
「赤信号なのでとまります」
「前から自転車がきています」
(きょうの空はとても青いです)
三次元を折りたたんで、声で紙飛行機を作り
湖へと飛ばす
すると
湖上でそれは広げられ、再構築されるのだ
三次元へ
あるいは四次元なのかもしれない
「右手に小さな公園があります。
すべり台とブランコがあって、親子が砂場で遊んでいます」
わからなくなる
どこかで、あの有名なキツネが笑っている
大切なことと そうでないことの
伝えるべきことと そうでないことの
境界がつかないまま
世界が泳いで逃げてゆく
「ほう、こんなところに公園がありましたか」
笑みを浮かべて、その人は言う
遠く奥深いところから
ぎったんばっこんと音がする
近頃、シーソーを見かけなくなったのは
どういうわけだろう
(見る/見た みる/みた 見る/見た みる/みた)
湖に、きしんだ音がこだまする
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