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Ririko Yamaguchi
夕焼け
「いい夕焼けというのは…」
年老いた夕焼けが、しわがれた声でいった
「美しいだけではたりないんだ。
見たものがどこかに帰りたくなるような
そんな色をださなくてはならんのだ」
若い夕焼けは、だまってきいている
しばらく沈黙があって
年老いた夕焼けは
ひとりごとのようにつづけた
「そこにつながる道はないとわかっていても
ふいに
どうしようもなく帰りたくなる場所ってのが
だれにだってひとつはあるものなんだ」
風が、つめたくなってきた
年老いた夕焼けと若い夕焼けは
月にあかりがともったのをたしかめて
しごとをおえると
人々が「あした」と呼ぶほうにむかって
かけていった
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