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Ririko Yamaguchi
袋
夕焼け小焼けが聞こえる
ああ、もうそんな時間と思ったら
まだ三時すぎ
だけど
耳の中にはたしかに小焼けが入っている
聞こえたので もう帰ります
だめだめとウラノさんが引き止める
その音に帰ったら戻れなくなるわよ
あたし知ってるもの
薄いレースの向こうなんだけどね
あっちからはこっちが見えるけど
そう簡単じゃあないのよ、色々と
金魚三匹呑みこんだら
戻ってこられるんだって
恐ろしいわね
あっちには年に一度きりしか
縁日がないっていうじゃない
その日を待って待ってさ
金魚三匹一気に呑みこむって
あたしね
あっちに行ってきた人ってすぐに分かんのよ
ちゃぽんちゃぽんてね
ううん、胃じゃあないの
ちがう袋があるのよ
ああ、聞こえる
ウラノさんの声がどんどん遠くなって
耳の骨たちはもう
すっかりオレンジ色に染まって
ゆうやけこやけ ゆうやけこやけ
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