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蝶のゆくえ

   

            

森で
一頭の蝶を追いかけていた
蝶の影と わたしの影は
音のないカノンになる 

 

蝶の震えに触れるたび
わたしの薄皮は剥がれていくのに


剥がれても、剥がれても、
本当の奥には届かない

 

カノンは 休むことなくどこかへ向かい
終える気配もないようだ

森のはずれは また違う森のはじまりで
遠くでは 戦が繰り返され
ラッパ吹きは ラッパを鳴らし続けている

過ぎたことも、先のことも茫として
追う者だったか
追われる者だったかも忘れてしまい
 
今はただ 
すべての薄皮が剥がれたあとの
わたしという塊を
見届けたいがために駆けている

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