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Ririko Yamaguchi
不意に
不意に、
むかし訪れたイニシュモア島のことを思い出した
島のごつごつしたさびしい様子を
再び心に描く時
気になってくるのは
「不意に」
と名づけられた心の動きのこと
見えない小人にノックされたような それは
あちらからやってくるのか
こちらがつかまえているのか
その時
イニシュモア島では
ある小人が ひとりの女を思い出していた
小人はむかし
ここを訪れたひとりの女の一部だった
女は船の時間を急ぐあまり
自分のかけらを置いてきてしまったのだ
かけらは島の生活に満足し
いつしか 島で暮らす小人になった
小人は 自分を置きざりにした女には
もう何の感情もないのだが
ときおり思い出すことがあるらしい
ただ不意に、唐突に、
それがなぜなのか
小人にもよく分かってはいない
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