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ぼうやと三輪車

 

 

昼過ぎに 突然激しい雨が降ってきた

 

あんなに騒がしかった蝉の鳴き声は

もう聞こえてこない

 

今、どこかのほの暗い坂道で

三輪車が濡れている

雨をあびて

三輪車は

ゆるやかな坂道をうごきだす

 

どこかのぼうやは

雨音をなつかしく聞きながら眠り

砂漠の夢をみている

 

死はまだ

遠くの空のように青くて

 

ここではない世界

あるいは ここにくる前の世界に

ぼうやの影は まだかすかに残っている

 

夏の雨には 気をつけなくてはいけない

 

ぼうやが そっと昼寝をぬけだし

濡れた三輪車につれられて

どこかへ

ここではないどこか遠くへ

いってしまうかもしれないから

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