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Ririko Yamaguchi
迷子
新しい街で
はじめての散歩をしたら
道に迷ってしまった
郵便局の脇の路地がいけなかった
焼きたてのパンの匂いも
珈琲豆を挽く香ばしい匂いも
店の窓から手を伸ばし
つぎつぎとわたしを誘惑していった
心細くて
それでいて どこか愉快なようで
もっと迷ってしまえと
心のラッパが高らかに鳴りだす
わたしはパンくずを
道に落としていくのをやめて
食べてしまった
あぁ…これでもう目印はなくなってしまったね
わたしの影は街に吸いこまれ
お菓子の家からは甘ったるい匂いがする
暗くなったから 帰ろうか
あっけなくみつかった帰り道を歩きながら
どうしてだか泣きたくなって
わたしの心は
正真正銘の迷子になった
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