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Ririko Yamaguchi
胡瓜の行方
親しき者が死ぬと
空は近くなる
火葬場の外では
幼き子らが駆けまわって
時折、弾けたように笑いだす
(ほら、あれはじいじのけむり)
抱かれた赤ん坊が、宙を指さしている
晩夏の空は
ひょうひょうと
死んだ腫瘍を吸いこんでいく
都会では
火葬場から煙突が消え
煙も出なくなったと聞くが
やがて故郷のそれも
煙をなくしていくのだろうか
土に還れず
空に向かうにも
生きる者に遠慮して
炉の中で
父が、燃えている
そういえば
実家の仄暗い土間に転がっていた
育ちすぎた胡瓜
あれをどうやって食べようか
父が、今
灰になっていく
わたしの頭から
ずんどうの胡瓜が
転がり落ちた
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